にしきた放浪記No.231
cafe greiner's(グライナーズ)
 ACTA西宮東館3Fにある喫茶店。今日は、ここで昼食をとることにした。何度となくこの店の前を横切ってきたが、入店するのはこれが初めてである。店にはいると、背の低いウェイトレスが私を禁煙席に案内してくれた。厚紙でできたメニューは火事にでもあったかのようにぼろぼろで、読む気が失せかけたが、読まないことには注文ができない。メニューがぼろぼろということは、それだけこの店が繁盛していると考えることもできるのだ。見かけに騙されるな。漫★画太郎の処女作での言葉が脳裏を過ぎる。
 私が注文してから5分が過ぎたころ、店の奥でいろんな物が割れる音がした。何が割れたのかは分からない。小綺麗な客席に腰を下ろしている以上、私には調理場で起きたことを正確に知る術はないのだ。どんなに楽しい演劇でも、舞台裏では何が起きているか分かったものではない。見かけに騙されるな。もう一度その言葉を思い浮かべながら、私はさらに5分間待ち続けた。
 注文してから約10分が過ぎ、私の席にサンドウィッチが運ばれてきた。ランチタイムに10分は待たせすぎな気がするが、普段からそうなのか、何かが割れたからそうなのか、一見客の私にはわからなかった。サンドウィッチはバゲットに切れ目を入れて具を挟み込んだサブマリン・タイプのもので、ポテトも付いていたため思ったよりも量が多く見えた。私はサブマリン・タイプのサンドウィッチを一つ手に取り、口元に運んだ。しかし、私の期待に反してバゲットは二つに分かれ、サンドウィッチの具は破れたサンドバッグの砂みたいに無惨にナプキンの上に降り積もった。見かけに騙されるな。三たび私の脳裏にこの言葉が過ぎった。非常に食べにくくなってはしまったが、味の方は良かったので、私は自分を励まそうと努力した。
 私がサンドウィッチを半分ほど胃袋に収めた頃、背の低いウェイトレスがオレンジ・ペコの紅茶を運んできてくれた。紅茶は不思議な形状の容器からゆらゆらと気持ちよさそうに湯気を立て、その横には5と書かれた砂時計が添えられていた。背の低いウェイトレスが何やら説明をしてくれたが、私はサンドウィッチの方に夢中だったので、全く聞いてはいなかった。おそらく、5分待ってから飲めということなのだろう。私は5と書かれた砂時計の砂が本当に5分で尽きるのかさえ疑いたくなったが、楽しいランチタイムを優先させ、信じることにした。私は濃いめの紅茶が好きなので、その後砂時計をひっくり返し、さらに数分待った。しかしそれはルール違反だったのか、背の低いウェイトレスによって茶葉と砂時計は回収されてしまった。私は自分の好みよりも薄い色の紅茶を飲みながら、この濃さも悪くないなと思った。特異な形状のティーカップに入っていたからかも知れない。見かけに騙されるな。私は考えるのをやめた。(2002/3/11)
場所: 北東エリア
安さ: ★★★
うまさ: ★★★★
速さ: ★★
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